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冨米斎の文房四宝Q&Aへ 文房四宝書籍解題へ
以前「研説」誌上の四コマ漫画で活躍した余舫雲竹斎の言いたい放題のコラムです。
■最新版 ■その1 


■民国の曹素功墨

 側款の「徽歙曹素功堯千精選」の文字の入れ方が、古い鉄斎墨にそっくりだったので、拾っておいた墨です。頂辺には「五石漆煙」と、これまた鉄斎墨と同じ表記があり、思うに表面に書かれた「民国壬申」(21年、1932年)は間違いなさそうです。裏の図案は、張大千の弟子で上海の女流画家として知られた李秋君の作。
 この程度の墨すら、最近では余り目にしなくなって来たのですから、厳しい時代になったものです。


■北京故宮の筆

 数年ぶりで北京の故宮へ行きました。故宮は広すぎて、いつも息切れしてしまうので、今回は外朝は無視して内廷東西六宮を中心に見学。こちらの方が、物が展示してある分、厭きはこないので助かります。もっとも、本物かレプリカかはわかったものではありませんが。
 以前は完全なおのぼりさんだったので、ろくすっぽ記憶に残るものとてなかったのですが、今回つらつら見ていくと、思いの外、流石は故宮というものが展示されていました。特に備え付けの家具なんぞ、ビックリするような作行きです。そこで、分厚いガラス越しではありますが、時間をかけてゆっくり見ていくと、埃まみれの机の上に、筆筒を発見。何やら筆が数本投げ込まれています。 爪先立ちになりながら、その筆筒の中を覗き込むと、奥底の方に品のいい青文字で「寿」を書き散らした小筆が・・・。
 この筆、故宮の図録などでは御馴染みで、乾隆帝がこよなく愛した玉蘭蕊型の紫毫筆に間違いありません。余りの無造作加減に、中の紫毫は無事だろうかと心配で心配で、右往左往。ふ~、何だか故宮の底知れなさを味わいながら、別の意味でもだだっ広いところだと実感してしまいました。もっとも、この「寿」も、レプリカだったりするかもしれませんが(苦笑)。


■提京筆の入れ物

 提京筆というカブラ部分に毛を入れた筆は、昔は、販売されるときにもう一つ竹の筒と蓋を作り、その中に綺麗に納めて売られていました。今では、この外側の竹の筒まで揃った状態で手に入れられることは、非常に少ないのです。
この竹の筒は、筆の作りこみと同様に、内側を薄く削り、カブラ部分の傾斜と見事にあうように作られていて、筆を納めてみるとぴったり収まりずれたりすることがありません。その職人技は、驚嘆にあたいすると、個人的に思っているのですが・・・
で、この筒、ほとんどが筆管同様の竹製で出来ているのですが、民国期の一時期だけ、紙で代用したことがあるらしく、そんな紙製の筒だけを北京で手に入れました。賀蓮青と書かれたこの紙製の筒、カラフルなデザインで当時のお洒落度が窺えるというものでしょう。
かつてご紹介した便箋といい、いにしえの中国人というのは、非常に繊細で凝った技巧を誇っていたのだとわかります。この手の品物を見つけてしまうと、ちょっとうれしくなってしまう私なのでした。


■賀蓮青の筆

 「賀蓮青」の筆は、書家の榊莫山氏の著書に記されてから、一般の方々にも知られたものとなりました。確かに、清末から民国期の北京の筆屋で、最も優れていたのは間違いありません。その筆を使いだすと、他の筆では替えられないものがあったのです。それ故に、掲載の画像の如くなったわけですね。
 この賀蓮青は、毛を入れるかぶら部分が割れてしまい、それを修理するために銅か何かの金属で部品を特注して、補っているのです。当然、かぶら部分が割れていますので、いったん羊毫は抜けてしまったはずですが、漆か何かを接着剤にして、直したカブラに見事に納め直されています。その執念たるや、まさに道具にこだわる文人気質というべきでしょう。もとの持ち主は、著名な画家・斉白石の直弟子です。
 賀蓮青の市販品の内、このカブラを伴う「仁・義・禮・智・信」のシリーズは、筆管に書かれた「濡染大筆何淋漓」「揮毫落紙生雲烟」「且向百花頭上開」「右軍書法白雲斉」「一巻陶詩傍枕看」という洒落た漢詩とあいまって、当時も人気が高かったものでしょう。そして、実際に使ってみると、その使いやすさは文字通り「筆舌に尽くし難い」ほど清々しいものなのですが、ここのところは使った者しかわからないのが残念至極。
 ということで、画家の執念かくまでもといったこの賀蓮青の筆、使ったことのある私は一も二もなく購入したのですが、銭勘定をするとどう考えても商売にはならず。独り見入ってはニヤついているばかりなのでした。
   

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■手前味噌

 月日の経つのは早いもの。拙書『清代・墨の物語』を書いてから、三年以上の時間が流れて行きました。北京渡航以前から、その続編を書くことは決めていたのですが、まさに牛の歩みよろしく、遅々として進まぬ有様。さりながら、牛とはいえ歩けば前に進むものでして、ようようにして次なる書物が完成。お披露目することとなりました。
 この書籍、とにもかくのも今の私が知り得ている中国の墨についての要点を、もらさず書き込んだという自負があります。もっとも、ほんのささやかな自負ですが(苦笑)。ささやかだったので、名前を最初は『古墨小紀』としていたら、お馴染みさん曰く「小はいけないよ。音楽でも小とつくとこじんまりして大成しないから」と。他人様の言うことには素直に従うものだとばかり、しばし熟考して『古墨紀言』と改名。昨今の状況で、中国の墨に興味を持たれている方がどれ位いらっしゃるやら、心もとない限りなのですが。果たして、ゲン担ぎのこの書籍、大成してくれるでしょうか?(笑)

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